2014年9月30日火曜日

マッスル・ショールズ 黄金のメロディ

 音楽ドキュメンタリーに何を求めるか、という話になっちゃうんだけど、こと「あるスタジオについての物語」という話になるとどうしてもミュージシャン目線では「サウンドの秘密」みたいなものを期待してしまう。「マッスル・ショールズ 黄金のメロディ」もそういう映画だと思って興味をもっていた。

 俺の前に観に行った友人が二人いた。一人はバンド仲間のベーシストで、もう一人は映画も音楽も好きな普通の(って言い方も変だが)ファン。先にベーシストに話を聞いていたのだけど、彼は「期待したのとは違う感じ。なんかお涙頂戴的な部分があって」のような感想を語っていて、つまり上記のような目線だったわけだ(ってか、この映画観たいねって話はこのバンド仲間と話していた)。

 もう一人は「グッときた」という。自分はセンチメンタルな人間だから、と前置きしたうえで「土地の力とか軋轢と和解とか、っていうサイドストーリーに胸を突かれる」という感想。

 俺はもともと「サウンドの秘密」的な期待を持っていたからベーシストの感想に引きずられ、まあ10月に横浜で観ればいいかな、くらいに思っていた。が、後からもう一人の感想を聞いて、視点を一旦ニュートラルにすることが出来て、俄然すぐにでも観たくなってしまった。

 そういうワケで早速、最終日前日となるシネマート六本木に滑り込んだ。さあ、俺はどちらの感想に近いのか……?

 俺は馬鹿だし、もう少しシンプルな音楽ファンなので、オープニングで「ダンス天国」が流れた瞬間もうどうでもよくなってしまった。既に踊りだしたい気分であり、漠然と「あ、この映画は楽しいだろうな」と思っている。ちなみに最初に俺がグッと来たのはこのオープニング、ウーリッツァーのロゴが大写しになった瞬間だった。

 事前情報からすると映画は「マッスルショールズサウンドの秘密」ではなくどちらかと言えば「リック・ホール物語」であることは解っていた。話は必ずしも時系列順ではないが彼の生い立ち、挫折と奮起を縦軸に進んでいく。特に「別れ」という要素が目立って描かれる。妻との死別、幼少時の弟の死、母との別れ、父の死。ジェリー・ウェクスラーとの決裂、スワンパーズの「裏切り」……ホールはそれを全て糧にして進んできた。七転び八起きと言うか、転んでもタダでは起きないというか。

 そう思っていると、随所に「マッスルショールズという土地の力」を強調する証言が挟まれる。これはホールとは関係ないこと。「河が歌う」「ここで録音するとファンキーになる」なるほど、サウンドの秘密なんかない。マスターテープを(クラシック・アルバムズ・シリーズのように)細かく聴いたってマッスルショールズの秘密なんか解らない。秘密は土地にあるんだから。この土地に、リック・ホールがいたからマッスルショールズサウンドは産まれた。そこまでは解った。

 そう思っていると(またか)、フェイムスタジオから引き抜かれたスワンパーズによる「マッスルショールズ・サウンド・スタジオ」の物語も並行して語られる。結局こっちのスタジオにも土地の力は働いているし、ホールの下で学んだ優秀なミュージシャンがいる。彼らの物語も(ホールほど細かく描写されないが)また、マッスルショールズ物語なのだ。(フェイム所属だった初代のバンドについては、あまり語られない。彼らはマッスルショールズを離れたからだ)

 こういう縦軸を、ジェリー・ウェクスラーやウィルソン・ピケットらの生前のインタビュー(これがまたこの映画の為に撮られたように見事にハマってるのだけど)も含め、ホールやスワンパーズ、ダン・ペン、スプーナー・オールダム(映画サントラ用の新曲も彼が書き下ろしている)、フェイム・ギャングのメンバー、それに亡きデュエインに代わって語るグレッグ・オールマンらスタジオの「当事者」たちの証言、フェイムやジャクソンストリートのスタジオで録音したアレサ・フランクリン、クラレンス・カーター、パーシー・スレッジやストーンズ、レーナード・スキナードのメンバー、ボノ、アリシア・キーズら後追いだけどマッスルショールズに憧れた人々の言葉で補強していく。どのエピソードも素敵で楽しくて時に大変そうで、終始こっちはニヤニヤして観てしまうのだけどこのへん言いたいこと全部言ったらただでさえ長い文章が大変なことになる。

 ラスト前に、70年代にフェイムを去ったスワンパーズがホールと和解するシーンは流石に感動的だ。もうこのくらいになるとさ、Quoのドキュメンタリーでも思ったけど「生きてるうちに再会できてよかったねえ」って思っちゃう。で、フェイムでアリシア・キーズがスワンパーズをバックに、勿論コントロールルームにはホール(エンジニア兼任!)で、ディランの曲を歌う。ここでロジャー・ホーキンスのスネアが入った瞬間に鳥肌立ったんだけど。この一切衰えない現役感。ああ、終わった物語を回顧してるんじゃないんだ。マッスルショールズサウンドは懐かしむべき過去のものじゃないんだ。
 
 別れて行った人々が再び交わり、過去と現在が交わり、そういえばレーナード・スキナードも(クリームのヴァージョンでだけど)Crossroadをカヴァーしてたよね、って言ったところでエンドロールに「スワンパーズ賛歌」でもあるSweet Home Alabamaが流れる。俺はもう半踊りでスーパーご機嫌モードで聴いてたんだけど、最後の「お説教」のあとのリック・ホールの笑顔も最高だったなぁ。

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