2014年8月29日金曜日

Paul & Linda McCartney / Ram

ウイングスを振り返るシリーズを始めようと思ったのだけど、そのためにはやっぱりRamから始める必要があると思った。長年にわたって色々考えていたけど、アーカイヴシリーズの発売で確信したのは、やはりこのアルバムがウイングスの最初のアルバムである、ということ。少なくともここで「ポール&リンダ・マッカートニー」とクレジットされている「バンド」はウイングスのプロトタイプであったことはどうも間違いないようなのだ。

 俺はデニー・レインの大ファンだから、どうしてもポール、リンダ、デニーが揃った時点をウイングスの起点としたいという思いが強かった。デニーの加入からデニーの脱退までがウイングス、というのが長年俺が「決めつけていた」ウイングスの歴史だったのだけど、やっぱりウイングスはポールのバンドなのだよね。今では「ポールがバンドを始めようと思った時点から、デニーの脱退でバンドが崩壊するまで」がウイングスであると捉えたいと思っている。

 そういうワケで、Ramに於けるバンド、つまりポール、リンダとデニー・サイウェル(Drs)に加え、ギターで参加したデイヴ・スピノザ→ヒュー・マックラケンというメンバーを「第0期」のウイングスとして考えたい。このアルバムは明らかにこのメンバーによるバンドのアルバムだった。

 そう考えるとね、05年のツアーでToo Many Peopleを「For Wings Fan」って紹介したことの辻褄が合うんだよね。まあ、実際には記憶があやふやだっただけだとは思うんだけど。

 実際のところ、そのToo Many Peopleを含め、バンドとしてのグルーヴを聴かせる曲が多数入っているのがこのアルバムの魅力の一つだと思っている。解りやすいのが勿論Smile AwayやEat at Homeで、どちらもその後ウイングスのツアーでもプレイされているところからも、バンド、ライヴを意識して作られた作品だということがわかる。実際、アルバム完成後にマックラケンはポールにバンド加入を誘われたようだけど、スタジオ仕事優先なのと英国暮らしを避けたかったこともあって断ってるんだよね。

 反面、いかにもポールのソロ的な、ポールが勝手に組み立てたものをバンドによるオーバーダブで仕上げた感じのする作品も沢山あって、このアルバムの人気はこういうクリエイティヴな曲に支えられてる面もあるのは否定できない。具体的にはUncle Albert / Admiral HalseyとかBack Seat of My Car、Long Haired Lady、あとシングルのAnother Day、それから後にRed Rose Speedwayに入ったLittle Lamb Dragonflyなんかもその線だと思う。ちょっと組曲風、というか「Happiness Is a Warm Gun症候群」というか、その系統の曲ね。ベーシックは多分ポールのソロに近いか、ポールとサイウェルくらいで録ってるんじゃないかと思うんだけどどうだろう。

 この辺に関してはレココレのRam特集号の対談記事で凄い腑に落ちたんだけど、なかでもポールの「ベーシックはラフだけどその上に重ねるものが緻密」ってのは重要な話だった。加えて「ビートルズの骨格が崩れたのがウイングス」「ビーチ・ボーイズのSunflowerやFriendsみたいな感覚」って話で、なるほど、俺が初期ウイングスに感じてた「何とも言えない変な音楽って感じ」の正体が解ったのね。とにかくいろんなものがガタガタで、不安定なのね。だから完成した音楽も、どれだけ緻密に作っても土台が不安定だからなんとなく安心できないサウンドになる。この感覚はBand on the Runでほぼ消えてしまって、それ以降はMcCartney IIまで聴くことが出来ない。

 Band on the Runで消えてるってのも不思議なんだけど、その話はまた項を改めたい。

2014年8月24日日曜日

The Kinks / You Really Got Me

私立恵比寿中学の「幸せの張り紙はいつも背中に」という曲をたまたま知って、聴いていたらなんとなくキンクスを想起したので久々にキンクスにハマっている(という下書きを書いてから1ヶ月くらい経ってしまったので、今はあんまりキンクスを聴いてるわけではない)。

 キンクスというと、You Really Got Meに代表されるリフ路線と、Waterloo Sunsetに代表されるノスタルジックなポップ路線に大別される、と思われがちだ。例によって、今回はそれに異を唱えたい。異を唱えるのは俺の趣味なのだ。ひなたぼっこでなく。

 アイドルに教えられる、ってのも面白いんだけどさ、エビ中のその曲聴いてからキンクス聴いたら、レイ・デイヴィスがいかにポップな人か、ってのを再認識した。その曲はメロディが少しだけOver the Edgeに似てるんだけど、あの曲も凄く人懐っこいメロディでしょ。でも、バンドの音は80年代のキンクスらしくエッジが効いてる。この頃のキンクスにはこのタイプの名曲が山程あるんだけど、実は、最初からそうだったのね、レイ・デイヴィスって人は。

 一旦そういうイメージを頭に入れてからYou Really Got Meをもう一回聴く。リフは置いといて、歌を聴く。そうすると実はコレも相当に人懐っこいメロディだって気付く。それはレイの声質や歌い回しに依るものも大きいんだけど、ヴァースのメロディが結構優しいんだよね。バッキング変えて、メロディアスなサビ付けたらバラードにもなったかも?言い過ぎかな。

 最初からそうだし、70年代のドラマ路線時代も、80年代にハードロック寄りになった時代も、ずーっとレイのメロディは変わってないのね。キンクスを長年聴いて一貫して聞こえるのはそのせいじゃないかな。

2014年8月19日火曜日

怒れ!憤れ! -ステファン・エセルの遺言-

 「映画を観ない男」であった俺に映画を観る習慣がついて約半年経った。今では多い時には週に3本、一日に2本見ることもある映画狂である。いや、嘘。やっぱりベツに「狂」じゃないし観ると決めていても観る前には「面倒臭いなあ」とか思うし。でも観るのは映画が楽しいことが解ったからで、いやまあ「何をいまさら」って思うでしょうけどね。

 映画に慣れないと観れない映画というものは存在する。

 今年観た「怒れ!憤れ!」は、ステファン・エセルの著書をインスピレーション源としたセミ・ドキュメンタリー。勿論「原作」はある種のアジテーションであり、物語ではないからそのまま映画にはならない。それを、移民の少女の物語(フィクション)と現実にヨーロッパ各地で行われたデモ(ノンフィクション)を組み合わせ、要所要所にエセルの著書からの文言を字幕のかたちでインサートして繋いでいる。

 俺はエセルの本を先に読んでいたけど、それでも難解、というかまあ俺の読みが足りないんだけど、でもメッセージは強く表現されてるから、多分これは読んでなくてもそれなりに響く。

 ただ、解るとか解らないではなく、映像と音が素晴らしいからなんとなく入り込むんだよね。「惹き込まれる」って言い方のほうがいいかな。広がりの表現が目についた印象。空や草原がばーん!って広がったり、屋内でも、閉塞感を感じる表現でも逆に広さの方が強調されてたり、周りを囲まれていても空が抜けていたり。雨の中みかんが大量に転がっていくシーンも近似の表現だと思ったな。

 音は、ノイズが音楽に転じるパターンの多用が印象的だった。空き缶が転がるシーンが繰り返し出てくるんだけど、その時のノイズがリアルな音じゃなくてループを使ってるんだよね。明らかにビートがある。これは狙ってやっていて、終盤で同じシーンが出てくるときには明らかに音楽に転じる。前半で、廃ビル(?)のなかにフラメンコダンサーやシンガーが出てくるシーンもそう。ダンサーのタップとノイズが組み合わさって複雑なリズムになる。で、こういう表現と後半のデモ中のシーンでのサンバ演奏がシームレスなのね。常に音は存在して、音は常に音楽。そういう表現。

 肝心のテーマに触れていないのは俺が馬鹿だから。感覚としてはなんとなく伝わってくるんだけど、捉えきれていないし、解釈するには勉強不足だ。だから俺はこの映画の音を、音楽を、メッセージを、感じることしかできない。だけど、運よくある程度映画というものに慣れてから観たから、どうにかその感覚だけは掴むことが出来たと思う。パシリムの後でいきなり観ても「なんだこりゃ退屈だな」で終わってた気がするんだよね。