
ストーリーを説明すると、老作家がある切っ掛けで色々と空虚な気持になって後ずっとエンディングまで2時間20分、というもの。こう書くと長くて退屈な映画っぽいでしょ。多分、それ正解。でも、俺は退屈はしなかった。長かったよ。長いけど、各シーンの展開はスピーディだし、映像は美しいし、なんとなく目を奪う瞬間が連続してるから飽きない。これをスペクタクル無しでやるのは大したものなんじゃないかな。
画面としての緩急は、クラシカルな音楽が流れる平時のシーンと、時折挿入されるパーティのシーンで付けられている。しかしローマの老人たちは結構激しいイタロハウス(?)で踊りまくるんだね。序盤のシーンは非常に長かったけど、俺は一緒になって半踊りだったけど(笑)まあ、ハウス系の方も、クラシカルな方も、音楽は総じて良かった。オープニングのコーラスは凄く印象的。劇中人物が歌っていながらBGMを兼ねていて、世界の曖昧さを表現しているように見える。

それでも、主人公自身は自身の逃避も含めて凄く冷静に自身や周囲を眺めている。たぶん自分自身についても他人事のような気分なんだろうけど、それでも友人の息子の葬儀では直前に「参列者は泣いてはならない」と持論を語るクセに棺を担ぎあげた瞬間に号泣するし、俗物枢機卿に何か言いたそうにしてると思ったら彼の偽善を突くでもなく「エクソシストだったって本当ですか?」だし(芸術家気どりを意地悪なインタビューで泣かせたり、友人の女性による自分自慢をばっさり切り捨てた人間の言うことか?)、彼自身の俗な部分、正気でコントロール出来てない部分も垣間見えているから面白い。

他にも主人公の親友で理解者だけど少し見下されてるボンクラな親友(デブでモテないくせに格好つけたがるあたりが俺っぽい)とか、主人公に虚栄を指摘されて激怒する友人女性(前述)とか、怪しい医者や同じく前述の俗物枢機卿(料理の話しかしないカリカチュアライズぶり)、ライヴペイントを披露する天才(?)少女、104歳の清貧シスターなど、印象的なキャラクターや出来事が入れ替わり立ち替わり、繰り返し登場するのだけど、全て主人公の人生を通り過ぎていく存在として掘り下げることもなく淡々と描かれる。それは大きなエピソードも小さなエピソードもほぼ等価で、心を通わせたストリッパーの死も、ずっと気になっていた隣人の正体も、一見ロマンスに見える友人女性との和解(?)も、初恋の女性の死と想い出も、全て同じレベルで、主人公にとっては一瞬心を動かされるんだけど数日〜数週間で風化するレベルの出来事だ。
それは映画としては「えっ!?」と思うんだけど、まあ、人生としてとらえるとそんなもんだ。だって、俺たちは他人のコトにそれほど興味が無いし、実際彼らは俺の人生に関係ない。

だから大きなエピソードがエンディングに直結しない。こういったことが色々あって再び筆を取る決意をしたとか、享楽的な生活が祟って悲惨な最期が待っているとか、和解した友人女性と恋に落ちて幸せな老後を送るとか、そういった、何がしかの結論的エンディングは存在せず、ローマの河が美しく流れていくだけだ。
最後にネタばれ。既に少し書いたけど、映画のポスターになっている主人公と女性が抱き合うシーンは前述の友人女性との和解のシーンだ。この映画を観に来た人の中にはこの画像から「年老いた男女のラヴロマンス」的なものをイメージした人も少なからずいると思うんだけど、このシーンで主人公が女性に対して語る言葉は「きみとセックスしたことはあったっけ」というものだ。ロマンティックな映画を期待した人はさぞかしがっかりしただろうなぁ。
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