2014年11月20日木曜日

T.Rex

 何度も強調しているけど、俺はバンドとしてのT.レックスが好きなのであって、マーク・ボランのファンというわけではない。勿論マークは大好きだけど、世間一般のイメージ、つまりT.レックス=マーク・ボランとは捉えていない。あくまで俺はバンドが好きなのだ。時代によって2〜5人編成になるけど、マーク以外のメンバーは決してサポートではなくて、彼らはバンドだったと思っている。勿論、俺が一番好きなのは黄金期の4人。マーク、ミッキー・フィン、スティーヴ・カーリー、ビル・リジェンドの時代だ。


 ミッキーは、スティーヴ・ぺリグリン・トゥックの後任としてティラノサウルス・レックスに加入。多彩なマルチプレイヤーだったトゥックと違って、基本的には絵描きであり、パーカッションプレイヤーでさえもなかった。トゥックの後任だから初期の写真などではパーカッション以外にもドラムやベースを演奏しているものもあるけど、勿論パーカッション以上に素人。論外、というレベルの演奏をしているところはBBCセッションの音源などで少し聴くことが出来る。

 彼はいったいバンドに於いて何をしていたのか。メイン楽器であるコンガは賑やかしレベルでぼこぼこ打ち鳴らすだけ。ヒール&トゥとかオープン、クローズとか、基本的奏法を学んだりもしてないんじゃないかな。スラップっぽいての動きを時折見かけるけど、サウンドはオープンとあまり変わらない。いや、あんまり音量上げてもらえないからそんなちゃんと聴きとれないのも事実だけど。

 そう、彼の音はフィーチャーされない。ステージでは基本的に全曲で芸の無いプレイを聴かせているが、会場によってまちまちであるものの総じて音量は低めのミックスだ。時々コーラスもしているけどちゃんとハモっていう気配も無いし、こちらも(スティーヴ・カーリー共々)音は小さめだ。そして、スタジオ盤ではもっと悲惨で、全くミッキーの音が聞こえない楽曲がしばしば、いや、むしろ大半だと言ってもいい。特に後期に於いてレコーディングはされたがミックスで消されたり、ほかのプレイヤーの(まともな)演奏に差し替えられたりもしたという。

 それでもミッキーはT.レックスのナンバー2であり、マークのパートナーだった。彼の存在感はマーク以上に「グラムロック」を体現していたし、何もしない、ある意味お荷物でさえもあったがマークの精神的支えの一人でもあった(その辺の具体例を示す資料は少ないが、「そうだった」という証言はしばしば聞く)。Zink Alloy〜Zip Gunの時期、マークの迷走とミッキーの不調→脱退が重なるのは偶然ではないのかもしれない。そして、同時期に表れたグロリア・ジョーンズがミッキーに代わりマークを支えていくことになる。


 T.レックスの1stはマークとミッキー(+トニー・ヴィスコンティ)で作られたが、バンド化を図るにあたってまずベーシストが迎えられた。スティーヴ・カーリーを加えた3人での演奏はやはり初期のBBCセッションや、ビート・クラブの映像などでも聴くことが出来る。

 カーリーは良くも悪くも普通の人だった。演奏はそこそこ手数が多くて微妙にテクニカルにも聞こえるけどまあ中の上、まで行くかな?って感じ。だけどメロディアスで印象的なラインを弾くので、結構曲のアクセントとして機能している。マークが細かいフレーズまでサジェスチョンしたとは思えないから、この辺はカーリーのセンスだろう。ビート・クラブでのJewel終盤のアドリブソロは特に印象的。ってか、アレで俺はカーリーのファンになった。

 スティーヴ・カーリーの中庸さはステージで活躍する。他のメンバーの不安定さを彼の堅実さが支える、ところまで行かない程度に下手なのがT.レックスのステージにおける醍醐味だ。マークはわが道を行き暴走気味、適応能力の無いリジェンドはあたふたとおいてきぼり寸前になりながら追いかける。勿論ミッキーは一切あてにもならないし役にも立たない。そんなバラバラのバンドを中庸で安定したベースプレイで繋ぎとめようとする……のだが、バンドの崩壊速度に彼の能力ではとてもじゃないけど追いつかず繋ぎとめきれない、そこがいい。そして、その崩壊寸前状態にこそT.レックスのグルーヴがある。

 そんな頼りないドラマーのビル・リジェンドはカーリーより少し遅れて雇われた。彼のドタバタして少し不安定なリズムと、つんのめり気味に入ってもたり気味に出ていくタム回しは特徴的で、マークが前、カーリーが真ん中、リジェンドが後ろにいるような状態で生まれるグルーヴが初期のT.レックスを印象付けていると言っても過言ではない。

 リジェンドの頼りないイメージは主にテレビ出演時、口パク演奏の場で発揮される。そもそもT.レックスのレコーディングはあまり曲を覚える暇も無いままマーク主導でガンガン進められ、ドラムなんかは後からこうしたかった、とか色々あったような証言もあるのだけど、そんな事情もあり、彼は恐らくレコーディングで自分が叩いたフレーズをちゃんと記憶してないんだろうね。その結果、自分のプレイに合わせて当て振りをする状況になると彼は困ってしまう。それでもキース・ムーンやジンジャー・ベイカーみたいに、合わせる気なんか全然無しで堂々と出鱈目動けばまだいいものの、半端に真面目なもんだから、不安そうな表情で、中途半端な腕の振りで、自身無さげにバックの音に着いていくしかない。その姿はひたすら情けなく、頼りない。

 リジェンドは(オリジナル)T.レックス唯一の生き残りだ。マークは言うまでも無く77年に事故死、初代パーカッションのトゥックも80年に「さくらんぼの種をのどに詰まらせて」死去、カーリーも81年にポルトガルで客死、ミッキーも肝臓病で03年に亡くなっており、14年現在「Legend=伝説」の名を持つ彼が唯一、当時の伝説を語れる立場にいる。

0 件のコメント:

コメントを投稿