2014年11月3日月曜日

FRANK -フランク-

 アンダーグラウンドなロックバンド、リーダーは常に巨大なマスクをかぶっている。そんな要素だけでも期待を膨らませるには充分な予告編を観た単純な初心者映画ファンはすぐに惹き付けられ、公開を心待ちにして、封切り初日に観に行ってしまった。これもまた、映画ファンとして初の体験である。

 音楽レビューっぽくバンド(ソロンフォルブス)のメンバーから紹介する。主人公はアマチュアミュージシャンで、偶然からバンドに参加することになるキーボーディストのジョン。日常を素材に自作曲をコンピューターで制作する序盤のシーンだけで彼の平凡な才能が描写される。この部分や後半でフランクに披露するオリジナル曲のパッとしなさが絶妙で、平凡な才能を持った作曲経験者はこれらのシーンだけで心臓から太腿くらいまでの皮膚と筋肉がざわざわすることは受け合い。ましてやジョンの自信ありげな表情や発言をセットにして見ては。

 ギタリスト兼ベーシストのバラクは神経質そうなフランス人。この手のアンダーグラウンド系バンドのギタリストとして完璧な風貌。勿論ジョンとの折り合いも悪い。女性ドラマーのナナは比較的きつさの少ない性格で緩衝材的な面がある。ちなみにこの人、俳優ではなくプロのドラマーで映画は初出演。ジャック・ホワイトやジョン・フルシアンテとの共演経験もあるようで、実力派じゃないか。プレイスタイルも独特で、なーんとなく「女ジョーイ・ワロンカー」って雰囲気も。。

 自殺未遂を起こしたメンバーの代役としてジョンをバンドに誘ったのがマネージャー兼エンジニアのドン。ステージには立たないがメンバーの一員のような描写(実際、初代キーボードでもあった)のされかたはピート・シンフィールドなどのノンミュージシャンもイメージさせる存在。精神の疾病持ちで人形にしか欲情しないというキャラ設定ながらジョンと並ぶ常識人として描写され、それだけに最期のシーンが衝撃的。

 映画とバンドの中心人物のひとり、クララはシンセサイザーとテルミンによるノイズ担当。ソロンフォルブスの事実上ナンバー2。エキセントリックな性格で、自分だけがフランクの真の理解者だと信じ、彼に対しては深い愛情と信頼を、ジョンに対しては憎悪に近い感情を抱いている。凄くいいキャラクター。入浴中のジョンと(何故か勢いで)セックスしてしまうシーンの色気の無さも白眉。

 そしてフランク。巨大な仮面を絶対に脱がないバンドのシンガーで、ソングライター。ソロンフォルブスのアバンギャルドな音楽性もコンセプトも全て彼のものではあるが、実際には意外に成功を求めたり、ジョンの音楽に理解を示したりする面も持っている。が、感覚が(音楽的に)ナチュラルに狂っているのでジョンの曲にアドバイスするうちに全く別物にしてしまったり、無理に書いた一般受け狙いの曲がやっぱり狂ってたり、っていう人。名前からしてザッパがモデルかと思ってたら、かぶり物設定含めてフランク・サイドボトム(ちゃんと聴いたことない)をベースにダニエル・ジョンストン+キャプテン・ビーフハートなんだってね。

 メンバー紹介だけで長くなっちゃったな。
映画の主題はフランクの正体、何故彼が仮面をかぶっているのか、かぶらなければならなかったのか、というところのように紹介されているけど、どうも違うんじゃないかという気がするし、仮面(内向性)と才能の関連についてはラスト付近で両親によって語られるとおりだ。


 むしろジョンのエゴの問題が主軸的に描かれている印象が強い。うだつの上がらないミュージシャンがカリスマ的なアンダーグラウンドバンドに加入し、大きな成功を夢見る過程でエゴが増大していく。レコーディング中にフランクに惹かれていく過程で自分がフランクをプロデュースできると勘違いを始めるジョン。「誰もがフランクにあこがれるが誰も彼にはなれない」というドンの言葉があるにも関わらずジョンは自分が対等になれると思いこんでいく。でも才気あふれるミュージシャン集団であるソロンフォルブスには彼の才能が無いコトは完全に見抜かれていて、だから最後まで決して本当の意味で受け入れられることはない。

 でもフランク自身は何故か彼の言葉を信じてしまうんだな。凡人であるジョンの、凡人ゆえの一般的感覚を取り入れることによってフランクが実は憧れる名声への近道となる、という想い。それは「成功=仮面の内に籠った心を広い世界に開放すること」への想いだったのかもしれない。

 でもそれをぶち壊すのはジョンだ。メンバーはフランクが「広い世界」に耐えられないのを知っていた。ナナに「狂っているのはジョンだ」と言われるが、エゴが肥大したジョンは(自分では気づいていないが)もはや「フランクの才能を世間に示す」のが目的ではなくなっている。「フランクを利用して自身が名声を得ようとしている」ことが言外に描かれるステージシーン。浮ついたMCを率先して行い、リーダーでシンガー(とはいえ、この時点ですでにバンドは二人だけだが)であるフランクそっちのけで自分の曲からステージを始めるジョン。結局ここで、大観衆とジョンのひどい音楽に耐えきれずフランクの精神は壊れてしまうのだけど、ジョンが自分の過ちに気付くのはもっと後。


 もう一つのポイントはネットの功罪。これは身につまされた部分だ。ジョンは登場時点からツイッターをやっていて、俺同様のネット中毒。で、アイルランドの山奥でのレコーディング風景も逐一ブログとYouTubeにアップしていて、本人はソロンフォルブスという素晴らしいバンドを世間に知らしめる手段だと思っている。だけど問題はそれをメンバーに無断で行っていたことで、その是非を巡ってバンド内の軋轢は悪化する。ジョンはYouTubeの再生数がバンドの人気の証、サウンドが世間に受け入れられた証だと勘違いするんだけど、フェスのスタッフには「たいした再生数じゃない」と言われるし、観ていた連中もバンドの音楽に惹かれたわけでなく「面白動画」として見ていただけということが解る。

 結局大雑把にいえばジョンは自己顕示欲を満たしていただけで、むしろ彼のやっていたことは余計なコトだった。状況こそ違うけど、実は俺自身数年前ちょっとつきあってた人に「ブログにプライベートなコトを書き過ぎる」と言われ、結局それが関係を壊す一因になった経験があるのでこの辺は見ていてキツい気分だった。

 でもなー、男女関係ならともかく、バンドのコトになるとむしろ「発信した方がいい」って方に流れるよなー。明らかに良かれと思ってやってるし、今の時代ソレが必要だと思う方が自然だし。一概にジョンが間違ってるとも言い切れないが故に、辛い。

 ラスト、フランク抜きの3人で演ってる音楽もいいし、そこにジョンに連れられ仮面を取ったフランクが現れ、仮面無しでも今までと変わらぬ才覚を感じさせるポップで甘美でアバンギャルドなバラードを歌い出し、そこにナナ、バラク、そして暫く遅れてクララ(ちゃんとステージにテルミンとモーグを用意している!)が入ってソロンフォルブスのサウンドが復活、気付くとジョンはその場にいない、と言う流れが最高にいい。全員が本来の「持ち場」を見出すラストはハッピーエンドと言っていいんじゃないかな。

 最後に音楽の話をちょこっと。

 勿論ソロンフォルブスのアバンギャルドかつ魅力的な楽曲も素晴らしくて、我慢できずサントラまで買った。まあ、劇中で聴く程良くはないと思ったけど(笑)でも、ジョンのしょぼい曲やフランクが大衆に迎合した中途半端な曲のような「駄目な曲」を解り易く書けるだけでも作曲のStephen Rennicksの才能がわかる。この人元々建築を学んでいたと言い、アバンギャルドな音楽が作れてサントラ作れて、って要素からちょっとピンク・フロイドも想わせる存在。フランクはシドだったのか!?

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