2015年2月11日水曜日

憧れのHappiness is a Warm Gun症候群

憧れのHappiness is a Warm Gun症候群とは。

 ジョン・レノンの最高傑作ともいえるHappiness is a Warm Gun、この曲に対し惜しみの無い賞賛を浴びせるミュージシャンや音楽ファンは多いが、そのなかでも代表的な存在なのがポール・マッカートニーその人だ。多分ポールはこの曲をものにしたレノンに対し、憧憬と嫉妬が入り混じった感情を、おそらく遅くとも1973年までは持ち続けていたと思われる。

 Happiness〜は大きく分けて3パートからなる楽曲だ。まず静かに始まる導入部を仮にパート1とする。このパートが徐々に盛り上がり、曲はパート2、ダークなメロディとリズムをもった部分に移行する。デモではI Need a Fix / Mother Supperiorというタイトルだったパートだ。そしてラスト、最も盛り上がる、解りやすいメロディと開放感のあるパート3で大団円を迎える。一種の組曲ともいえる構成になっているのがこの曲の特徴だ。

 で、この曲を聴いたポールは、病気にかかってしまうのだ。「俺もHappiness is a Warm Gunを作りたい」。

 さっそくポールは69年、You Never Give Me Your Moneyを作曲する。この曲、Happiness〜と酷似した構成を持っているのだ。静かに始まるパート1から、パート2にあたる部分ではハードに展開する。但し、I Need a Fixのようなダークさは無く、ホンキートンク調のピアノが入った明るい雰囲気になってるのがレノンとの違い。パート3が曖昧なのがこの曲時点で消化具合が低いせいか、同じにはしたくないという意地か。あえて分けるならOne Sweet Dream〜からエンディングの部分に開放感を感じる。

 Back Seat of My Carも影響下にあると思っているのだけど、パート2にあたる部分が無いのと、パート1、3が繰り返し現れるので印象は違う。Long Haired Ladyも近いが、組曲というより一曲の中で整合性があるパート分けになっている。ただ、この時期の曲は他にもUncle Albert / Admiral HalseyやLittle Lamb Dragonflyなど、複数の曲(断片)を組み合わせて一曲に仕上げるというパターンが非常に多く、これがポールの作風の一つになっていく。

余談だが、コレは実はレノン&マッカートニーでよくやっていた技でもあって、それをレノンが一人でやったのがHappiness〜とも言えるわけだ。更に余談になるけど、A Day In the Lifeのスタイルをポールが一人で再現したのがLive and Let Dieだし、Abbey Roadメドレーを再現しようとして的確に失敗したのがHold Me Tightメドレーだと思う。

閑話休題。こういう作風の実験を続け、なかなか「俺のHappiness」をものに出来ずにいたポールだけど、73年、遂にそれを完成させる。それがBand on the Runだ。

 この曲はもう完璧にHappiness is a Warm Gunの構成をなぞっている。静かに始まるオープニング(パート1)からダークな雰囲気のパート2(If I Ever Get Out Here〜)に展開。ここはI Need a FixよりMother Supperiorの雰囲気に近い。そして短いブリッジ(Happiness〜には無い)を挟んでラストのタイトルフレーズを含む大団円へ。

 多分この曲でポールはコンプレックスを解消したんだと思う。よりポップで、アルバムタイトルにもして、シングルにもなって、ヒットもした。「俺は勝った」と。いや、ポールがそう思ったかどうかは知らないけど、そういう人だろうあの人は。レノンを乗り越えた、と。

 解消したんだけど、今度は味をしめたのか更にキャッチーに、スタジアム級を狙って作ったのがVenus and Mars / Rock Showだし、それこそ断片組み合わせ系、メドレー系の楽曲は山ほどある。もう作風として完全に染み着いちゃうところまで来たわけだ。

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