2014年5月14日水曜日

Status Quo / Ma Kelly's Greasy Spoon


 一般的にはQuoがブギー路線へシフトした最初のアルバム、と捉えられているけど、それは本当だろうか?っていうか「違うよね」ってのが結論で、本稿では「これってどういうアルバムなのか」って話をする。ある意味、こいつはかなりの異色作なのだ。

 ご存知の通り、前作Spare Partsまではサイケデリックなポップ路線で売っていたQuo。まあ1967〜68年という時代を考えれば順当なサウンドなんだけど、これはプロデューサーによる「押し付け」であり、本人たちが目指した路線は違う(=ブギー)、というのが一般的ないわれ方だった。

 本当か?

 そもそもQuoがSpectresとしてデビューした時の路線は、所謂ブリティッシュR&B、解りやすく言えばモッドなサウンドに近いものだった。コレが66年ごろ。で、The Status QuoとしてPictures Of Matchstick Manをリリースしたのがサイケ全盛の67年で、まず重要なポイントはこの曲がロッシのオリジナルだった、ということ。つまり、このサイケデリックな曲をフランシス・ロッシは意図して作曲したのであり、モッズ風から時代に合わせてサイケ路線にシフトしたのはQuo自身の方針だった、と考えた方が自然だ。
 違和感があったとすれば、ほぼ焼き直しのBlack Vails Of Melancoryをリリースしたり、進化の無い2ndアルバムを作ったり、という部分じゃないんだろうか。サイケが嫌だったわけではなく、サイケから先に進もう、という意思があったということ。

 要するにこの時代、Status Quoは偉大なるマンネリバンド(実際には後年も違うんだけどね)ではなく、時代に合わせて先を狙っていく若手バンドだった、ということだ。

 さて、本題。

 68〜9年にもなると、ビートルズのWhite AlbumやストーンズのBegger's Banqutteも出て、世間はバック・トゥ・ルーツという雰囲気になっていく。そこでQuoも同じようなことを考えても全く不思議ではない。で、そこで彼らが選んだのは必ずしも「ブギー」ではなかった。

 アルバムに先行するシングルは、サイケ色は残しつつもぐっとヘヴィーになったエヴァリー・ブラザーズのカヴァーThe Price Of Love、後のブギー路線に近いDown The Dustpipe、そして同じくハードブギーをイメージさせる(でも少しサイケ)なIn My Chair。

 で、アルバムに行くと、まずストレートにブギー路線なのはSpinning Wheel Blues、Junior's Wailing、Lazy Poker Blues、そしてGotta Go Homeの4曲であることに気づく。しかもうち2曲はカヴァー。11曲(メドレーを分割して考えて)中で大きな位置は占めるものの、どうもこの路線は、狙ってはいたが試行錯誤の段階だったのでは、という推測も成り立つ。次作ではこの辺がもう少しシャープに聞こえてくることになる。

 むしろこのアルバムでは後のQuoから消えて行ったへヴィな16ビートノリの、まさしく69年型の「ハードロック」的な楽曲が目立つ。(Daughter)、(April) Spring, Summer and Wednesdays、Lakky Lady、Need Your Love、Is It Really Me、これらの曲のグルーヴは後のQuoからはほぼ消え去っていくもので、この時期(次作にも少し現れる)までしか聴くことができないものだ。

 そうしたところで同時代のロックバンドを聴くと、こういうグルーヴ感(ただしQuoのものは若干稚拙、というか向いてない感がある)はむしろ一般的で、シャッフルのブギーやブルーズ曲を味付けにしているパターンが多い。つまり、実際にはQuoも、こういう時代の潮流に乗っただけ、と捉えた方が自然なのではないか。

 ただ、ちょっと稚拙というところがポイントで、多分メンバー自身も「これに乗っていてもやっぱり先は無いな」と思っていたのではないか。そこで、アルバムと、先行シングルで出来の良かったへヴィなブギー路線、これを押し出していく、という方針が漠然とでも見えていたのではないか、という気がする。

 注目したいのがShy Flyで、まだぼんやりはしているものの、後の8ビート系ゴリゴリブギーの原型と思えるグルーヴになっている。これは次作では一旦姿を消すが、Vertigo移籍後には中心的な路線となるのはご存知の通り。

 Vertigo移籍後、浦ジャケに過去アルバムのアイコンが載るようになる。そのスタートは次作のDog Of Two Headだ。Ma Kelly〜ではないのだ。その理由ははっきりしている。明らかにこれは過渡期の作品。確かに、Dog〜もまだ焦点は定まっていないけど、ブギーナンバーのサウンドが明らかに自信満々になっている。こういうところが、この2枚の差なのではないかな、と思うわけだ。

1 件のコメント:

  1. こんばんは。

    個人的にそこまで好きなアルバムではありませんが、ここからがQuoの本領発揮といったところですよね。
    ただ、『Heavy Traffic』から入った僕としては、少し地味な印象があります。70's~90'sのアルバムが全て明る過ぎるのかな。

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